フシダラ 第4話

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「君は、お姉さんが亡くなってショックではないのかい?」  伊織が発した言葉を、私はその問いを口にすることで誤魔化した。 「どうなのでしょうね。僕は姉が大切でもあり、……心底憎んでいたようにも思います。悲しいか悲しくないかと問われると答えに窮しますが、ただ可哀相だと感じます」  その答えに、私は身震いした。自分と同じ感情を抱き、それを打ち明けた伊織を、穴が開く程見つめる。 「姉はこの屋敷から逃れたくて外へ出たのに、結局は自由になりきれなかった。とても哀れです」  伊織は不意に、哀しい瞳のままで小さく笑った。 「不思議です。どうして僕は、初対面の貴方に自分の内心をこんな風に話せるのでしょうね」  揺れる黒い瞳に呼応するように、私の心も揺れ動く。胸がざわついた。 「君にとっても、この家は枷なのか?」  そう訊ねると、伊織はふっと笑んだ。それは先程のような笑みとは違う、背筋に何かが駆け抜けるような妖艶さを含んでいた。 「この家は穢れています。……そして僕も」 「そんな風には見えない」  否定をすると、伊織はすっと近付き囁く。 「試してみますか?」  瞬間、肌がぞくりと粟立つ。それが嫌悪感からくるものではないことを、私は理解していた。 「もしもその気がおありなら、今夜僕の部屋へいらして下さい」  そう言い残して伊織は部屋を去っていった。 ◇ ◇  ◇
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