フシダラ 第4話

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「うーん。いいねぇ七原くん。ばっちり」  九鬼の言葉に、七原はほっと安心したような表情を浮かべた。  午後になると、七原を含めた俳優陣がマイクロバスに乗って到着した。全員でコテージ村の山本オーナー夫人お手製のカレーを食べたあと、洋館での撮影が開始された。貴島は既に半月以上前から、都内のスタジオや他のロケ地での撮影が始まっていたが、今ここにいる役者のほぼ全員が、今日からクランクインだった。その為か、準主役の七原はカメラが回るまでは緊張している様子だった。しかし、いざ本番が始まると、そこにいるのは七原ではなく『伊織』だった。佐木は彼が時折『天才』と評される理由がわかった気がした。まだこの役をやるには早過ぎるのではないか。イメージが違うのではないか。この映画の完成を待つファンだけではなく、制作スタッフの心の中にも僅かにあった不安を、七原はその演技で吹き飛ばしてくれた。清廉で純真。そんな彼のイメージから想像もつかないような艶っぽい表情。離れて見ていた佐木ですらその色気に驚いたのに、間近にいた貴島はきっともっとそれを強く感じただろう。七原のいい演技に刺激されてか、貴島の美山もより美山らしくなり、ロケ一日目は滞りなく進んだ。
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