フシダラ 第4話

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 佐木は貴島のベッドシーンの撮影を見るのはこれが初めてではない。その時はもちろん相手は女性だったけれど。僅かに居た堪れないような気持ちはあった。しかし、緊張に満ちた現場の空気を肌に感じ、真剣な貴島の顔を見ていたら、特に意識をする暇もなく終始冷静に立ち会うことができた。それなのに今、佐木はささくれ立ったような気分を抱いている。目前の光景から目を逸らしたいと思ってしまう。相手が同性である七原だからなのかもしれない。佐木はまだ心のどこかで、貴島が異性と接触することに対して諦めのような気持ちがある。貴島は多くの女性に愛されて当然だから。だけどそれが、自分と同じ男だと許容できないのだろうか。自分でも思ってもみないような疑問が浮かぶ。  貴島はちゃんと『美山』の顔をしているのに、完全に『マネージャー』の意識になり切れていない自分に嫌悪感が滲む。意識の高いスタッフばかりの中で、自分だけがプロ失格だ。 「すげぇエロいの撮れたよ」  まだ緊張感の残る室内で、九鬼のおどけた声が響き、笑いが漏れる。それを切っ掛けに場が和み、スタッフから次々に興奮気味の感嘆の声があがった。バスローブ姿の貴島と七原を交えて、撮れたばかりの映像を見返す。 「いや、もう。ほんとに挿れてるみたいだね、これ」  九鬼のあからさまな言葉に、片瀬が顔面蒼白になると、助監督の男がすかさずエルボーを入れて窘める。  貴島は画面を食い入るように見つめ、素に戻ったらしい七原は真っ赤な顔をしていた。 「あれ、佐木くん大丈夫? 当てられちゃった?」  遠くへ意識を飛ばしていた佐木に、振り向いた九鬼が声を掛ける。佐木は焦ったように返事をした。 「際どい場所はもちろん使わないし、編集したのをちゃんと事務所さんに見てもらうから、心配しなくても大丈夫だよ?」  九鬼の言葉に佐木は曖昧に返事をして、誤魔化すように笑った。
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