アイオイ 第1話

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アイオイ 第1話

 人間が放つオーラというものが本当にあるという事を、佐木孝平はその日初めて知った。他の人とは明らかに違う空気。貴島大地から放たれるそれは、威圧感に近いのに目を離せない。情けない事に足が少しだけ震えていた。 「初めまして、佐木孝平と申します。よろしくお願い致します」  深く頭を下げた。貴島は値踏みするような視線を佐木へと寄越す。日本人離れした等身。成人したばかりと聞いていたが、とてもそうとは思えない程の体躯の良さ。端正な顔立ち。 「どーも」  貴島は興味なさげに呟いて、やがて気だるそうに、視線を窓の外へと移した。それ以上会話を続けられず、二人きりの応接室に重たい空気が流れる。  それでも、どうにかしないといけない。この青年の信頼を得る事が、自分に与えられた仕事なんだと佐木は自分を奮い立たせた。  都内にある芸能プロダクション、三浦エンタテインメント。歌手や俳優、声優、モデル、芸人など、様々なタレントが在籍する、業界では中堅に位置する芸能事務所。それが佐木の職場だった。この事務所に勤務を始めてようやく二ヶ月が経過しようとしていた。所属タレントのスケジュール管理を行うマネージャー業が主な仕事だったが、この世界の右も左も理解していない状態で使い物になる訳もなく、この二ヶ月、佐木は見習いとして社内で電話番などの事務作業を行っていた。  そして昨日、社長室に呼び出され、そこで告げられた言葉に、佐木は思わず卒倒しそうになった。  それ程大きい規模の事務所ではないが、所属しているタレントはそれなりに多い。その中で出された辞令が『貴島大地の付き人』だった。その名を耳にした途端、佐木は動揺を隠せなかった。
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