フシダラ 第4話

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 母屋に入る前はまだ僅かに明るかった空は、すっかり夜に染まっていた。まだ九月だというのに、山中は長袖でも肌寒いくらいだ。辺りからは微かに虫の音が聞こえている。九鬼は佐木を外に連れ出すと、指で真上を指差した。佐木は空を見上げて、思わず感嘆の声を漏らす。そこには満天の星空が広がっていた。 「すごい。こんなにたくさん」 「昨日は雨だったからね。撮影的にはありがたかったけど」  佐木の反応に、九鬼は満足そうな笑みを浮かべた。 「僕……、あ、俺の田舎も星は結構見えるんですが、ここは高い場所にある所為か、なんだか近く感じます」  以前言いつけられた通りに、律儀に言い直した佐木に九鬼は噴き出した。母屋の裏側まで二人で歩き、星空を眺めた。 「綺麗だなぁ」  ぽつりと落とされた九鬼の呟きに、佐木は空を見上げたままで、「そうですね」と答える。 「いや、空じゃなくて、君ね」  九鬼の言葉に、佐木は驚いて隣を振り向く。すると九鬼は、両方の親指と人差し指で四角い形を作り、そこから佐木を覗いていた。その手はカメラのつもりなのだろう。 「佐木くんは、パーツの形がいいよね。控え目で、でも芯が強いのが顔に出てる感じがする」  うーんと唸りながら、九鬼は目を眇める。
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