フシダラ 第4話

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「九鬼さんのような、有名監督にカメラを向けられたら、緊張してしまいます」  九鬼のからかいに、佐木は小さく笑いをこぼす。 「いや、これ口説いてんだけどなぁ」  九鬼はボリボリと頬を掻いた。それを見つめる佐木の顔から表情が消える。 「っていうかこの間の質問、答えてもらってないんだけど」  なんのことだかわからず僅かに顔しかめると、九鬼は「彼氏はいる? イエス? ノー?」と続けた。 「……いません」 「ふーん?」  言うなり九鬼は佐木の腕を掴んで引っ張った。咄嗟のことに抵抗できず、佐木は九鬼の腕の中に抱き込まれる。 「九鬼さん!?」  後ろに回った手がするりと背を撫で上げ、佐木は思わず体を震わせた。 「っ、離して下さい!」  佐木は九鬼の胸を突き飛ばして、どうにかその腕から逃れた。そのまま後ずさったが、背後にあった建物の壁に阻まれて動きを止める。九鬼は佐木を囲むように壁に手をついて、上から覗き込んできた。 「冗談ならよして下さい」 「それって冗談じゃなかったらいいってこと?」 佐木は反抗するように九鬼の瞳を強く見返した。 「へー、そんな顔もできるんだ。そそるね」 「人を呼びますよ」  距離はあるが、大声で叫べば誰かしら気付く筈だ。 「どうぞ?」  しかし九鬼に動揺する様子は見られない。
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