フシダラ 第5話

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フシダラ 第5話

 夕食会がお開きになり、明日の撮影に備えて各々が部屋に戻った。風呂の支度をしていた佐木は、浴室で貴島に数度呼び掛けられても気付かなかった。 「お前、今日なんか変だぞ」  少し怒ったような貴島から、視線を逸らすように顔を俯ける。  今日の七原との撮影シーン以降、佐木はろくに貴島の顔を見ることができなかった。貴島は仕事に集中しているのに、私情を挟んでマネージャーになりきれない自分が恥ずかしかった。そしてつい先程起こったばかりの、九鬼との一件。自分の至らなさが原因で、九鬼には佐木が同性と恋愛する人間だと知れてしまった。  貴島に話した方がいいのかもしれない。そんな考えが一瞬よぎり、すぐに消え去った。ただでさえ貴島と九鬼の間の空気はピリピリしているのに、火に油を注ぐようなことはできない。撮影に集中している貴島の気を削ぐようなこともしたくなかった。  第一、常日頃から貴島には「お前は無防備過ぎる」と注意されていた。それなのに九鬼が自分に向けていた興味に、少しも気付けずにいたという体たらく。自分が情けなかった。
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