フシダラ 第5話

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「体調悪ぃのか?」 「いえ、なんともありません」  否定する佐木に、貴島は疑わしい視線を向けた。 「ちょっと来い」  佐木の腕を掴み、浴室から連れ出そうとする貴島の腕を、佐木は拒むように振り解いた。抵抗されるとは思っていなかった貴島は、驚いたように目を見開く。 「本当に、なんでもありませんから」  佐木の言動に、貴島の表情が曇る。 「その態度でなんもねえって?」  苛立ったような声に、佐木はぎゅっと指先を握り締めた。 「仮に何かあったとしても、今この場では関係ありません。大地さんは明日の撮影のことだけを考えて下さい」  きちんとしたマネージャーでもいられないのに、もしも足を引っ張るようなことがあれば、自分を恨んでしまいそうだ。貴島は佐木を凝視したのち、短い息を吐いてその場から立ち去った。佐木は自己嫌悪で滲みそうになる涙を、唇を噛んで堪えた。
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