フシダラ 第5話

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 そのまま貴島と口を聞かずに朝を迎えた。昨夜の出来事が尾を引き、貴島は少し不機嫌だったが、それ以外はいつも通りだった。  母屋で朝食を摂り、ロケ地へ向かう準備の最中で、ちょっとしたアクシデントが起きた。冴子がちょっとした弾みで階段から滑り落ちてしまったらしい。話を聞いて佐木がダイニングに顔を出すと、ソファに座った冴子の左足首が、痛々しい程に腫れていた。 「大したことはありませんから。どうぞみなさん私にお構いなく、お仕事に行って下さい」  冴子は恐縮した様子で何度も頭を下げる。 「いやでも、これは折れてしまっているかもしれませんよ。病院へ行った方がいいと思います」  スタッフの一人がそう言うと、オーナーが渋い顔で唸る。 「そうですね。念のために病院で診てもらうことにします。あとは私がなんとかしますので、みなさんはどうかお気になさらず」 「でもあなた、それじゃあみなさんのお昼ご飯が作れないわ」  冴子の言葉に、オーナーは「ああ、そうか」と焦った顔をした。 「やっぱり湿布を貼って固定しておくわ。あなたは料理はからしき駄目なんだから、私がやらないと」 「いや、しかし。かなり腫れてるしなぁ……」  困り果てたようなオーナーに、声を掛けたのは佐木だった。
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