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「あの、もし宜しければ、僕が食事を作りましょうか?」
オーナー夫妻だけではなく、その場にいた撮影スタッフたちも佐木を振り向く。
「え、いやでも、そんな御迷惑をお掛けする訳には……」
「奥様にちゃんと病院に行って頂かないと、きっとスタッフも皆、心配で撮影に身が入りませんから」
オーナー夫妻は顔を見合わせた。
「食材を頂ければ、あとはこちらでなんとかしますので」
オーナーは数秒黙り込んだあと、すみませんと頭を下げた。
「ありがたいことに今まで、夫婦ともども病気や怪我とはまったく無縁でしたので。こんな風に皆様に御迷惑をお掛けするとは思ってもみませんで……」
「それなら尚のこと怪我をされて御心配でしょう。どうぞお気をつけて病院に行ってきて下さい」
オーナーは、「お言葉に甘えさせてもらいます」ともう一度頭を下げて、すぐに出掛ける準備を始めた。佐木も一旦その場から離れ、貴島の姿を捜す。
「奥さん怪我したって?」
貴島は玄関前で七原と九鬼と話していた。
佐木に気付いた九鬼が声を掛けてくる。昨夜の出来事が夢だったかのように、九鬼は普段通りだった。だから佐木も努めていつものように答える。
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