フシダラ 第5話

4/12

208人が本棚に入れています
本棚に追加
/332ページ
「あの、もし宜しければ、僕が食事を作りましょうか?」  オーナー夫妻だけではなく、その場にいた撮影スタッフたちも佐木を振り向く。 「え、いやでも、そんな御迷惑をお掛けする訳には……」 「奥様にちゃんと病院に行って頂かないと、きっとスタッフも皆、心配で撮影に身が入りませんから」  オーナー夫妻は顔を見合わせた。 「食材を頂ければ、あとはこちらでなんとかしますので」  オーナーは数秒黙り込んだあと、すみませんと頭を下げた。 「ありがたいことに今まで、夫婦ともども病気や怪我とはまったく無縁でしたので。こんな風に皆様に御迷惑をお掛けするとは思ってもみませんで……」 「それなら尚のこと怪我をされて御心配でしょう。どうぞお気をつけて病院に行ってきて下さい」  オーナーは、「お言葉に甘えさせてもらいます」ともう一度頭を下げて、すぐに出掛ける準備を始めた。佐木も一旦その場から離れ、貴島の姿を捜す。 「奥さん怪我したって?」  貴島は玄関前で七原と九鬼と話していた。  佐木に気付いた九鬼が声を掛けてくる。昨夜の出来事が夢だったかのように、九鬼は普段通りだった。だから佐木も努めていつものように答える。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加