フシダラ 第5話

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 一時を少し過ぎた頃に、佐木はスタッフに借りたワゴン車でロケ地に到着した。撮影も丁度切りのいいタイミングだったので、すぐに全員で昼食になった。大鍋に作った豚汁は持ち運び式のコンロで温め、炊き出しさながらに列をなしたスタッフに配った。 「うまっ、ちょっとなにこれ!」  ピクニックのように辺りに腰掛けて食べ始めたスタッフから、感嘆の声が上がる。業務用の炊飯器で作った鮭の炊き込みご飯は、外でも食べやすいようおにぎりにした。混ぜて炊くだけなので簡単ではあったが、さすがに二升分を握るのは一苦労だった。多めに作ったつもりだったが、豚汁も握り飯もあっという間になくなってしまった。独身の男性スタッフからは「嫁にきて下さい」と冗談まじりの声が掛かり、辺りは笑いに包まれた。  女性スタッフに手伝ってもらいながら食事の後片付けをしていると、背後から肩を叩かれた。 「ちょっと来い」  そこにいたのは貴島だった。洋館の裏手を視線で指す。 「すみません、まだ片付けの途中で……」と佐木がかわそうとすると、すかさず傍にいたスタッフが「佐木さん、あとはやっておきますよ」と声を掛けてくれる。佐木はスタッフに曖昧な返答をして、その場から離れようとしなかった。
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