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「ンなもん、現場でお前が、スタッフとか関係者に愛想振り撒いてるだけで、いちいちイラついてる俺はどうなんだよ」
「……え」
意外な言葉に驚く佐木に、照れ隠しなのか貴島は顔をしかめた。
「確かにオンとオフのメリハリは必要だけど、仕事してる時のお前も、今こうして俺と喋ってるお前も同じだ。恋人と他人のベッドシーン見て普通にしてられる方がおかしいだろ」
貴島の手が、膝の上に置いていた佐木の手に重ねられる。
「俺だって同じだ。今の俺もカメラの前の俺も、結局はイコールだ」
握られる手の感触に、切ない気持ちが湧き上がる。
「お前とこんな風になってから、今まで知らなかった感覚とか感情がわかるようになった。それは多分、カメラの前の俺にも繋がってる」
貴島の言葉に、鼻の奥がつんと痛んで、目元が再びじわりと熱を持った。それに気付いた貴島が小さく笑う。
「こんな有能なマネージャーは、業界見渡してもちょっと見あたらねえな」
からかい混じりの最大級の褒め言葉に、堪えられなかった涙が頬を伝った。
貴島が自分を大事にしてくれるように、佐木も心底貴島が大切だ。同じように支えて、守りたい。歩む道が途切れないように、進む足が止まらないように。
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