フシダラ 第6話

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   ◆  ◆  ◆  夕方からのイベントを楽しみにしてか、出演者もスタッフもいつも以上に集中して撮影に臨み、無事に予定時刻である十七時半に日程が終了した。ワイナリーへは、オーナーが所有の送迎バスを出してくれることになった。 「九鬼さん、本当に行かないんですか?」  母屋の前に停車されたバスへとスタッフたちが乗り込んでいく中、九鬼はそれを腕組みして眺めている。メイク担当の女性スタッフが訊ねると、九鬼はわざとらしく拗ねたような表情を浮かべた。 「だって酒飲めないのに、君らが美味しそうにワイン飲んでるとこ見てるだけなんてヤだもーん」 「施設の見学だけでも楽しいと思いますよ」と言うスタッフに、九鬼は手で追い払うようなジェスチャーを見せる。スタッフは「拗ねないで下さいよ」と笑った。 「じゃあ佐木さんも行かれないんですか?」  近くでそれを見つめていた佐木へと、スタッフは声を掛ける。 「佐木くんも僕と一緒にお留守番してようよ。下戸同士部屋でコーヒーでも啜らない?」  困惑の表情を見せる佐木に、九鬼は言葉を重ねる。 「まあ彼女が言うように見学だけでも楽しいかもしれないから、行ってもいいと思うけど。……どうする?」  くすぐるような九鬼の視線を受け止め、佐木はきつく自分の手を握り締めた。その時、不意にバスに乗り込もうとする貴島と目が合う。思わず口を開きかけて、慌てて噤んだ。貴島は一瞬立ち止まったが、背後の七原に何事かを言われ、すぐにバスの中へと入っていく。佐木は自分の目がそれ以上その姿を追わないように、きつく目を閉じた。
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