フシダラ 第6話

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 その声を掻き消すように、突如室内にインターホンが響いた。九鬼は扉を振り向いて耳を澄ます。それはやむことなく鳴り続けた。ようやく九鬼がベッドから立ち上がったと同時に、インターホンは激しい扉の打撃音に切り替わり、佐木は身を縮めた。 「まさかなぁ……」  九鬼がゆっくり玄関へ向かう。佐木はそれを見送りながら、上手く操れない自分の体をベッドから起こした。  カチャリ、と九鬼がロックを解除する音が聞こえた途端、乱暴に部屋の扉が開かれる。汗だくで部屋に飛び込んできた貴島と目が合った瞬間、佐木は頭の中が真っ白になった。  貴島は信じられないものを見たような顔で佐木を凝視したあと、すぐ傍の九鬼に飛び掛かった。 「てめぇ、あいつに何した」 「おーっと。言っておくけど、僕が無理矢理拉致ってきた訳じゃないよ。オトナのお取り引きってやつだから」  胸倉を掴まれ、壁に押し付けられた九鬼は、降参だというように両手を上げる。貴島は一度、振り向いて佐木を見た。佐木ははだけられた胸を隠すように、シャツの合わせを手で押さえる。 「あいつを脅したのか」 「うーん、物騒なその表現には物申したいけど、否定はできないかなぁ」  地を這うような貴島の声にも、九鬼は動揺した様子はない。貴島は九鬼の体を壁に打ち付けると、その手を離した。暴力的な貴島の行為に、佐木は咄嗟に声を掛けようとしたが、音にならなかった。貴島は再び振り向いて佐木に向き合う。怒りに満ちたその表情に、佐木は息を止めた。大股で近付いてきた貴島に、痛みを感じる程の強い力で腕を掴まれる。力任せに腕を引かれ、佐木は歩き出す。玄関を通り過ぎる時に、「こいつにちょっかい出すな」と貴島は九鬼を睨み付けた。
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