フシダラ 第8話

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「不安か?」  貴島の問い掛けに、佐木は少し躊躇ってから頷いた。九鬼がこの先、どういう行動に出るのかわからない。何を考えているのかも。貴島はソファに座る佐木の前に立つと、慰めるように柔らかい手つきでその前髪を払った。 「あいつも、自分の作品作ってる最中に揉めごと起こしたくねえだろうから、とりあえず今は平気だろ」  佐木は貴島の指先に猫のように目を細める。 「バラすなら公開直前だろうな。内容が内容だ。話題作りには御誂え向き過ぎるスキャンダルだ」  まるで他人事のような貴島の口調に、佐木は閉じそうになっていた瞼を開き、自分に触れる指先を掴んだ。咎めるような、泣きそうな表情で見上げる佐木に、貴島が手を握り返す。 「この作品が俺の最後の出演作になるかもしれない」  そのセリフに衝撃を受けて目を見開く佐木に、貴島は最後まで聞けというように握る手を強くした。 「今までも手を抜いてるつもりはない。だけど、この先のカット、全部そういう気持ちを持ってやる」 「大地さん……」 「もちろん、最後にしてやる気はねえ。誰に何を言われようが、黙らせられるような仕事をする」  その力強さに、佐木の鼓動が高鳴る。しなやかで気高い、貴島の魂。自分が惹かれ、魅了され続ける絶対的な存在。 「お前は耐えられるか? この先、暴かれて、後ろ指をさされても……」  佐木は貴島の言葉の途中で堪らなくなり、弾かれるように立ち上がった。 「……佐木」  何があっても、どこへ行っても。この場所から、貴島の隣から離れる気はない。貴島の首に腕を回してしがみつく佐木を、貴島はしっかりと受けとめ、同じ強さで抱き返した。
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