フシダラ 第8話

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◇ ◇  ◇ 「君はここから出たいと思わないのか?」  私が訊ねると、伊織は可笑しそうに顔を歪めた。 「それなら、貴方がここから僕を連れ去ってくれますか?」  黙り込んだ私に、伊織は声を上げて笑う。 「冗談ですよ。本気になさらないで下さい」 「伊織……」  私の言葉を遮るように、伊織は口を開いた。 「貴方はもう、この屋敷を出た方がいい」  伊織が呟き終えると同時に、ノックの音が部屋に響く。いつもの呼び出しだった。 「どうぞ部屋にお戻り下さい」  伊織は無表情で一礼すると扉へ向かう。私は咄嗟に伊織の肩に手を置いてその体を強引に振り向かせた。 「……っ」  不意を衝かれた伊織は、不安そうな表情で私を見上げる。黒く濡れた瞳が驚愕に見開かれていた。 「放して下さい」  はっと我に返った伊織は、私の手を振り払い、逃げるように部屋から出て行った。
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