フシダラ 第8話

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 怒り、憎しみ、そして嫉妬。マグマのようにうねる激情のまま、文彦を手に掛けてしまった美山。これでもう、伊織を縛る者はいない。狂気を纏い、少しの安堵感を滲ませた美山の表情。それを貴島は、完璧といっていい程絶妙に表現した。見守っていた佐木の腕に鳥肌が立つ程生々しかった。  美山が森を彷徨い、この洋館へと辿り着くシーンから始まったロケ合宿は、美山と伊織が森を抜けて館から逃げ出すシーンで締め括られた。  洋館でのロケを終えると、主要メンバーの殆どがクランクアップとなる。そこからは仕事の合間を縫って残りのシーンを撮影した。他の作品を挟んでも、貴島の集中が途切れることはなかった。  二ヶ月にも及ぶ撮影は終盤を迎え、とうとう今日でオールアップになる。最後のロケはのどかな港町で行われた。  逃げ出した美山と伊織は海辺の土地で兄弟と偽って暮らし始める。穏やかで、ただ過ぎ行く日々。だけどそれもほんの数年で終わりがやってくる。伊織は母と同じ病を患い、命を落としてしまう。そうして、美山だけが遺された。
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