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「お疲れさん」
感動に少し潤んだ瞳のままで、佐木は深く頭を下げた。九鬼はそれを見て小さく笑う。
「気に入らない演技したら、例のアレ。宣伝用に暴露してやろうと思ってたのにな」
「……え」
「悔しいけど、最後のシーン、理想の上をいかれちゃったかな」
九鬼は一度背後を振り返って呟いた。
「また数年後にでも彼のスケジュール空けといて。もっと成長して更に興収取れるようになってから、やっすいギャラで出てもらうことにしたから」
「九鬼さん……」
「今ここで消えてもらう訳にはいかなくなったからさ、佐木くんの健気さに免じて、黙っておいてあげるよ」
九鬼は唇に立てた人差し指を当て、わざとらしいウインクをして見せた。佐木の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「彼に飽きたら、いつでも言ってね?」
こっそり耳打ちしてくる九鬼に、佐木は苦笑した。
「申し訳ありません。飽きるなんてこと、起こりそうにないです」
今日より明日、明日より明後日。貴島は魅力を増していくし、自分も更に惹かれていく。
九鬼の呆れたような声を聞きながら、佐木は光を浴びる貴島を、眩しそうに見つめた。
《END》
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