アザナイ 第1話

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アザナイ 第1話

 佐木が重厚な雰囲気の扉をノックすると、中から「どうぞ」と声がした。 「失礼します」  佐木はきちんと礼をして入室し、扉を押さえて貴島を促した。  貴島が所属する、【三浦エンタテインメント】は業界で中堅の芸能プロダクションだ。稼ぎ頭である貴島がこうして事務所を訪れるのは数ヶ月ぶりのことだった。所属事務所といえども、俳優である貴島の職場はスタジオやTV局が主だ。スケジュールは事務所のスタッフと、唯一の専属マネージャーである佐木が管理してくれているし、打ち合わせは外部で行うことが多い。  本日最後の収録を終え、こうして事務所を訪ねたのは、社長である礼子からの呼び出しが掛かったからだ。  会社の持ちビルの最上階にこの社長室はある。部屋の奥には大きな窓があり、そのすぐ近くに立派な木製のデスクが設置されている。 「お疲れ様、待ってたわ」  デスクで作業をしていたらしい礼子は、立ち上がると部屋の中央にあるソファをすすめた。貴島が上等な革のソファに腰を下ろすと、佐木もその隣に腰掛ける。礼子は二人の向かい側に座った。礼子は最初に二人の近況を訊ね、しばらくしてから本題に入った。
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