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「諏訪氏は五年前……孝平が入社する少し前ね、大地がテレビに出始めた頃にうちを訪ねて来たのよ。端的に言えば金銭の無心に」
ソファがギュ、と音を立てる。佐木が受けた衝撃の音だ。
「諏訪氏は事業に失敗して多額の借金があったの。それで大地のことを知ってうちへ来た。実の息子なら自分を助ける義務があるんだということよ。人様の父親に言う言葉ではないかもしれないけれど、どの口が言うんだろうと思ったわ」
礼子は怒りを隠さずそう告げた。
「大地の意見を踏まえて、丁重にお断りしたわ。そうこうしているうちに別件で詐欺や恐喝、傷害の罪で逮捕された」
礼子の話を聞いていると、貴島の腹の奥から忘れていた怒りと不快さがよみがえってくる。
「本題はここからよ。もう大地は察しがついているでしょうけど、諏訪氏は三ヶ月前に出所している。しばらく関西で暮らしていたみたいだけど、今月こちらへ拠点を移したそうよ」
貴島は無意識に拳を握り締めていた。
「ほぼ間違いなく大地に接触してくる筈だわ」
礼子が険しい表情で貴島の目を見た。
「確認するまでもないと思うけれど、諏訪氏が再度金銭の援助を要求してきた場合、あなたに応じる気はないのね?」
「……ああ」
感情を殺したような低い声で答えると礼子は頷く。
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