アザナイ 第1話

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「私も同じ意見よ。家庭には様々な形があるし、親子の問題に他人が口を挟むべきではないと考えるけど、これは家族の問題だとは思えない」  貴島はその言葉通りだと思った。諏訪は家族ではない。貴島に『家族』という人間は存在しない。 「親としての責任を果たしていない人間に、義務を要求できる権利なんてないわ」  実際に諏訪に会ったことのある礼子は、その男の浅はかさを知っているからか、発する言葉に糾弾するような厳しさがあった。 「今と昔じゃ大地の知名度も影響力も違いすぎる。諏訪氏はそれを利用するつもりでしょうね」  礼子は重い息を吐き、強固な意思が感じ取れる瞳で二人を見つめた。 「いつでも対処できるように準備は整えておくわ。まずは事務所に接触してくる可能性が高いけど、万が一ということもあるわ。孝平、大地をお願いね」 「はい、もちろんです」  佐木は一瞬、知ったばかりの事実を飲み込み切れないように息を詰まらせたが、すぐに返事をして深く頷いた。  自分より他人の状況や感情を気にする性格だ。今の佐木の心境を思いやると、小さく胸が軋んだ。
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