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「こんな、胸に何か引っ掛かってるような感じにならなかった」
これは不安だろうか。自分はあの男を恐れているのだろうか。貴島はあの頃より肉体的にも精神的にも大人だ。成長した気でいた。だけどそれは自分の勘違いだったのかもしれない。
「それは違います。きっと逆ですよ」
佐木は立ち上がり、貴島に正面に回り込んだ。
「弱くなんかなっていません」
床へ膝をつき貴島をまっすぐに見上げると、佐木は手を掴んでくる。
「大地さんが大きく成長して、この手の中にその時とは比べものにもならない程たくさんのものを持っているから、そう感じるんです」
迷いのない澄んだ瞳。貴島が惹かれた優しく強い眼差しだ。
「あなたを支えるスタッフ、応援してくださるファン、たくさんの友人。みんながあなたを大事に思っていて、あなたもみんなを大事に思ってる」
佐木は掴んだ手のひらをぎゅっと握り締めた。
「もしもあなたに何かあった時、その方たちにも影響が出てしまう。大地さんはそれを懸念しているんじゃないですか?」
柔らかい声が問い掛ける。自分でもはっきり理解していなかった思考や感情を、佐木はそっと拾い上げてみせた。
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