アザナイ 第1話

8/14
前へ
/332ページ
次へ
「大地さんの優しいところも、強いところも、大好きです」  握った手を引き寄せて、佐木は貴島の手の甲へ頬ずりした。 「あなたがみんなを守りたいと思うように、みんなも同じ気持ちです。もちろん俺も」  伝えきれない気持ちを表すみたいに、佐木は貴島の手に唇を押し付けた。 「あなたは文字通り百人力……千人力、もっとかもしれない」  貴島を見つめる穏やかな表情。少し重くなっていた気持ちが、ふっと軽くなった気がした。 「そうだ、お祝いしないと」  佐木は思い出したようにそう言った。 「だって浅田映画の主演ですよ。それも集大成の作品に起用したいだなんて、この上なく光栄なことです」  飛び切り嬉しそうに佐木が笑う。  礼子が二人を呼び出して告げた、『すごくいい話』の内容とは、日本映画界の重鎮、浅田秀夫監督からのオファーだった。浅田が監督する映画に出演するのは、これが初めてではない。貴島がブレイクする切っ掛けとなった【夜桜】も、浅田が指揮をとっていた。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加