アザナイ 第1話

10/14
前へ
/332ページ
次へ
 貴島を見出したのは浅田だと佐木は言うがそうではない。本当の意味で貴島を見出したのは礼子であり、佐木だ。  高校を中退し、目的もなくただ日々をやり過ごしていた貴島は、十七の時に礼子にスカウトされた。事務所に入り、現マネジメント部の部長である松田や、一回り以上年上の俳優仲間、和久井に出会い、少しずつ変わっていった。それでも根っこの部分は未成熟のままで、何かを切り開く力も気力も持っていなかった。  父親を名乗る男が突然自分の人生に介入してきたのはそんな時期だった。今まで『父親』という生き物に対して、取り立てて何かしらの感情を持った覚えがなかった。それ程に関わりがなかった。ただ突如現れた侵入者に激しい怒りを感じた。自分の人生に立ち入る資格を持っている訳はないのに、堂々と関わりと権利を主張する男の厚顔無恥さに嫌悪感を抱いた。その血を引いていると思うと寒気がした。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加