アザナイ 第1話

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 男が逮捕という強制的なフェイドアウトをしたあとも、その怒りは収まらず、八つ当たりのようにすべてにおいて投げやりな態度をとった。迷惑を掛けておきながら反抗的な態度を取る貴島にも、礼子や松田は優しかった。今思えば即クビになってもおかしくない程身勝手な振る舞いをした。横暴を振るい担当マネージャーを何人も辞めさせた。  そんな時に佐木は貴島の前に現れた。佐木も今までのマネージャーたちと同じようにすぐに自分から離れていく筈だった。だけど佐木は自分を放り出さなかった。緊張で体を強ばらせ、怯えたような目で自分を見ていた。それでもその視線は決して貴島から離さなかった。  この存在は自分にとって必要だと感じ、のちに誠実さと直向きさを知って信頼を覚えた。辛い過去を経てもなお、笑顔を絶やさない。崩れ落ちそうになってもピンと背筋を伸ばして胸を張ろうとする。弱くて強い。いつしかそんな佐木に支えられ、癒されている自分に気付いた。いじらしさに胸が引きつれて、抱き締めたいと思うようになった。不意に見せる表情や仕草にどうしようもなく心を掻き乱される。
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