アザナイ 第2話

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 先日礼子からもたらされた吉報に、一も二もなく承諾の返答をすると、浅田側から『一度ゆっくり話をしたい』と自宅に招待をされた。貴島が浅田と会うのは、【夜桜】の受賞祝賀会以来のことだった。【夜桜】は公開されたその年の、名だたる映画賞の各賞を総嘗めにした。貴島も新人賞を受賞している。  瑞江に案内され、廊下を軋ませながら廊下を進む。身長が百九十近い貴島は、腰を折って鴨居を避けた。通された部屋は応接間のようだった。貴島と佐木が入室するのと同時に、その奥の部屋のふすまが開く。 「やあ、来たか」  浅田は貴島を認めると、豊かな白髪が広がる頭を掻き、押し上げた眼鏡の奥の目を細めた。 「ご無沙汰しております」  貴島が頭を下げると浅田は微笑を浮かべて頷いて見せる。浅田は普段から使っているらしい深緑色の座椅子に腰を下ろし、貴島たちはテーブルを挟んだ向かい側に座った。和室では胡座をかく貴島も、この場では佐木同様に正座をした。 「まあそうかしこまらず楽にしなさい。君は正座が苦手だったろう」  浅田は年相応のしわが刻まれた口元を綻ばす。 「随分マシにはなりましたよ。浅田さんに鍛えていただいてから」
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