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会話の途切れ目で、タイミングよく廊下から声が掛かる。瑞江はきちんと膝をついてふすまを開け、入室してくる。
「あら、あなた。着替えると仰っていませんでした?」
お盆を運んできた瑞江は、浅田を見て驚いたような顔をした。
「半纏姿でお威張りになられても、威厳も何もありませんよ」
「今日は殆ど私的な招待だと言ったろう。だから私も普段通りの格好の方がいいかと思い直してだな……」
「本当は着替えようとして、寒くておやめになったんじゃありませんこと?」
追及された浅田は押し黙り、綿入れの結び紐を指で弄った。子供のような仕草に、貴島は笑いそうになるのを堪えた。
「お二人ともお寒くはありませんか? ごめんなさいね、古い家なもので」
「いえ、平気です。ありがとうございます」
「どうぞお茶でも飲んで温まってくださいね」
瑞江は言いながら、緑茶の入った湯呑を貴島の前に置いた。
不意にガタガタと強く音が立つ。庭に面したガラス戸が風で揺れている音のようだった。ガラスの向こうには何か白っぽい花が少しだけ見えている。
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