アイオイ 第7話

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「代わりに誰か寄越すかって訊いたら一人で平気だって」  昨日、貴島に言われて胸に刺さったままの言葉が疼く。やはり貴島には佐木がいようがいまいが関係ないのだろうか。そう思い佐木が再び沈みそうになった瞬間、続けられたセリフに引っ張り上げられる。 「お前以外に付かれても逆に面倒くさいから邪魔とか言ってたぜ? 片っ端から担当マネ辞めさせてた奴のセリフとは思えないよなー」  電話越しから聞こえるくぐもった笑い声など、佐木には聞こえていなかった。 「ま、って事で現場は大丈夫だから、お前はゆっくり休め。早く復帰してくれよ? お前以外は大地を扱えないからな」  村上に謝罪と礼を言って、佐木は電話を切った。  佐木を必要ないと言ったのは貴島で、佐木以外は邪魔だと言ったのも貴島だ。自分は矛盾した言葉のどちらを信じればいいのだろう。佐木は携帯を握ったまま、ベッドに仰向けに倒れた。  本当に貴島が自分をいらないと言うなら、佐木はそれに従うしかない。だけど自分はそれに耐える事ができるのだろうか。頭も心も、貴島でいっぱいなのに、それを失えば空っぽになってしまう。しかしそれと同じくらいに、自分の存在が貴島を煩わせてしまう事が佐木には怖かった。
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