アイオイ 第7話

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 手の中の携帯が突然振動して、佐木はびくりと体を揺らした。すぐに止んだ振動は、着信ではなくメールを知らせるものだった。僅かに震える指でメール画面を開くと、差出人は貴島だった。昨夜から無視し続けている着信。読む前からその文面が容易に想像できた。そこに綴られているのはきっと怒りや侮蔑の言葉だ。随分長い間躊躇って、覚悟を決めてそのメールに目を通すと、それは予想外の内容だった。 『十三時半、生放送観ろ』  文章はその短い一行で終わっていた。貴島はその時間から生放送のトーク番組に出演する予定だった。 (……一体何を?)  貴島が何をするつもりなのか、佐木にはまったく見当がつかない。しかし何かをしようとしているのは確かだ。放送時間まではまだ五時間程ある。止めた方が良いのではないか。佐木はそう思ったが、未だ貴島に連絡をする勇気が持てないでいた。悶々としたまま時間は過ぎ、放映時間を迎えた。
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