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「あ、一瞬カメラお借りしてもいいですか?」
突然の貴島のお願いにも「どうぞどうぞ」と満面の笑顔で頷く。週刊誌なんかよりも確実で、しばらくは世間を賑わす事間違いなしの大ニュースを披露してくれた貴島に、司会者はすっかり上機嫌だ。
カメラがすっと貴島に寄った。さっきまでにこやかにトークしていた表情が一変する。強い眼差しに射抜かれる。テレビ越しである筈のその視線が、実際に至近距離で見つめられたように感じられて、佐木は竦みそうな体を自ら支えるように抱き締めた。
「てめえ、逃げてんじゃねえよ。言い訳くらいさせろ。いい加減にしねえと次の生出た時に名指しで呼び掛けんぞ?」
鋭い目つきと声に、会場がしんと静まり返る。凍りついた空気を打ち砕くように、貴島は外行きの顔でにっこり笑って見せる。
「以上です。ありがとうございました。すみません、公共の電波を私用しちゃいまして」
一番最初に我に返ったのはやはり司会者だった。
「貴島くんっ! お相手は身近にいらっしゃる方なんですか? 一般の方ですか?」
興奮のあまりか芸能レポーターのような質問を、「そこは想像でも妄想でもしちゃって下さい」と貴島はかわす。
「ああっ、お訊きしたい事がまだ山のようにあるのですが、そろそろお時間のようです! 本日のゲスト、貴島大地さんでした! 今日は本当にありがとうございました!」
客席からすすり泣くような声と、異様なテンションの司会者の言葉で、番組は締めくくられた。
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