アイオイ 第8話

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「お前ここまでのアシは? 車か?」  貴島の問いに身を硬くしながらも、佐木は震える声で答える。 「……いえ、電車です」  すると貴島は、佐木に向かって何かを投げた。掴み取るとそれは貴島の車のキーだった。運転しろ、という事なのだと佐木は悟った。  ロックを解除すると、貴島は助手席のドアを開ける。 「ご自宅でいいですか?」  運転席に乗り込み、シートベルトを締めて貴島に訊ねても返答はない。それを了承だと受け取り、佐木は車を発進させた。貴島が車内で一言も発しないので、佐木も口を開かずにいた。  貴島の自宅マンションへと辿り着き、駐車場に車を停めると、佐木は先に降りていた貴島に車のキーを差し出した。貴島は佐木を一瞥してキーを受け取り、マンション入り口へと向かった。佐木はどうしていいのかわからず、恐るおそるその背中に声を掛けた。 「あの……、俺はここで失礼します」 「は?」  貴島の足がぴたりと止まる。 「お前、昼に俺の話聞いてたか?」  言いながら佐木を振り返った貴島の眉間には怒りを表す皺が刻まれている。 「……はい」 「だったらなんでそうなるんだよ?」 「だって……」 「あ?」 「だって、大地さんは何も言わない……」
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