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怯えた風に答えた佐木の声は普段より幼く響いた。何も訊ねる事ができない自分の意気地のなさが悪いのはわかる。けれど、怒った様子で黙ったままでいられては、突然会いにきた自分の行動が間違っていたのかと思ってしまう。
「はあ? お前はどこぞの女かよ? 手ぇ引いて部屋まで連れてけば満足か? いちいち面倒くせえ奴だな」
佐木の体が衝撃に大きく揺らぐ。大きく見開かれた瞳に、傷付いた色を見つけた貴島の表情が少し和らいだ。
「悪ぃ、言い過ぎた。今のは忘れろ」
佐木の傍まで戻ってきた貴島は、大きな手のひらで、佐木を慰めるように髪を撫でた。それでもその体は強張ったままで、貴島は何度も同じ動作を繰り返す。
「……大体、お前なんでスーツだよ」
「……え?」
「まあ、いいや。……来い」
命令口調なのに、甘さと優しさを含んだ響きに励まされ、佐木はこくりと頷き貴島の後ろに続いた。
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