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「もう一度訊く。あの放送観て、俺に言う事ねえか?」
何かを答えようとして様々な感情が佐木の中を駆け巡る。けれど何ひとつとして形にはならない。
「てめえ……俺が何言ったか忘れてんじゃねえだろうな」
「……っ、忘れてません」
「じゃあ何言ったか言ってみろ」
貴島の瞳は目を逸らす事さえ許さなかった。
「逃げるな、と」
小刻みに揺れる指をぎゅっと握りながら、どうにかそれだけを搾り出す。
「それだけかよ? お前の脳みそどうなってんだ? 忘れてんじゃねえよ」
「忘れてません……ただ」
再び黙り込んだ佐木を、貴島は今度は急かさなかった。
「あれは、俺に言ったんですか?」
その問いを口にした途端、佐木の胸の中で後悔が広がる。そんな事がある筈ない。きっと自分の勘違いだ。そう思うのに……それが事実であればと願ってしまう自分の愚かさが恥ずかしかった。
「……お前なあ、そうじゃなかったら、わざわざ『観ろ』なんてメール打つかよ」
貴島は盛大な溜息を吐いた。
「だって、俺はマネージャーだから……」
生放送であんな発言をすれば、大事になることくらい貴島は最初から予測できていた筈だ。だからあらかじめマネージャーである佐木に知らせる為に義務的に送られてきたメールなのかもしれない。
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