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「お前、ほんとに面倒くせえな……」
心底というように貴島が呟く。佐木本人もそう思った。
「大地さんは……面倒事は嫌いでしょう?」
自虐でもなんでもなく、佐木は本心からそう思う。だからこそ、貴島がひと時の気まぐれでも自分を選ぶ筈はないと思った。もしかしたら、と期待してしまう気持ちも、この状況が示す答えも信じられない。
「お前も大概ひどい奴だよな、……ここまでやらせてまだごねるか?」
呆れた声に苛立ちが混じり、佐木は条件反射で怒鳴られると身構えた。しかしいつまで経っても怒声は聞こえてこない。代わりに長い腕に引っ張られ抱き込まれて、佐木を息を詰めた。
「あー、ほんと面倒くせえ……」
乱暴な言葉とは裏腹に、後ろ髪を優しく梳かれる。硬直する佐木の体を解すように、大きな手のひらがゆっくり背を撫でる。
「当たり前だろ、面倒なんて嫌いだ」
その言葉に反応して身を引こうとした佐木を、最後まで聞けと言うように貴島の腕の力が強くなる。
「それでもこうしてる意味、いい加減わかれ」
「大……地、さん」
もう冗談でも、自分の勘違いでも、なんでも良かった。眩暈がしそうな程の幸福に、佐木は手を伸ばして縋った。
「もうすぐ二年です、貴方と出会って。食べ物の好み、いつも吸ってる煙草の匂い、好きなお酒の銘柄。好みの女性はセミロングで脚の綺麗な人……もうなんだって知ってるんです」
貴島の腕の強さに励まされるように、佐木は言葉を続けた。
「それと同じくらい、大地さんだって俺の事を知っているでしょう?」
情けない部分も、弱いところも、こんなに面倒な事も。それでも尚、自分を望んでくれるのだろうか。
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