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「知らねえよ、なんにも」
貴島は佐木の体をそっと離し、背を抱いていた手をその頬へと滑らせた。
「知らねえ事だらけだ。だから、教えろよ」
貴島は佐木の顔を上へ向かせると唇を合わせた。柔らかく啄ばみ、カサついた部分を潤すように表面を舌で撫で、貴島は離れていく。
その優しいと感じる接触に、佐木の顔が泣きそうに歪む。
「俺は、大地さんを好きでいてもいいんですか? それを口にする事を許してくれますか?」
わななく唇で訊ねると、貴島の口元が綻んだ。
「当たり前だろ、バカ」
口調はいつも通りなのに、貴島の瞳が見た事もないくらいに優しくて、胸が苦しい。
「おい、もう泣くなよ。それ以上目ぇ腫れしたら、明日も仕事休むはめになるだろ」
今にも泣きそうな佐木を貴島がからかう。
「ったく。どんだけ泣いたんだよ」
貴島の唇が佐木の目元に落ちる。昨晩泣き通して腫れ上がった目元は、氷で冷やしたものの完全に腫れは引かなかった。涙や鼻水を拭いすぎて、擦れて赤くなった皮膚の上を貴島の舌が辿る。傷口を舐める動物のような仕草に、佐木は真っ赤になった。それに気付いた貴島がふっと笑みをこぼして、掠め取るように唇を奪う。
「……来な」
貴島は佐木の手を取り、部屋の奥へと誘った。
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