アイオイ 第8話

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「大地さん……っ」  泣き出しそうな佐木の声に、貴島は渋々その手を止めた。あからさまに不機嫌な様子に、佐木は消え入りそうな声で「ごめんなさい」と呟く。すると貴島は長い息を吐いて体を起こし、がしがしと頭を掻いた。 「怒ってねえから。……どうした、怖いか?」  佐木の顔を覗き込み頭を撫でる。その感触の甘さに顔をくしゃりと歪ませると、「怒っても優しくしてもどうせ泣くなら無理矢理ヤんぞ」と額を指で弾かれた。その言葉が本気でない事は表情からわかる。 「……がっかりしませんか? 俺は男で、本当になんの面白みもない体で……」  貴島と同性である佐木の体には、当然の事ながら女性のような丸みもないし柔らかい胸もない。ズボンの下、佐木が本当に『男』なのだという証拠を目にして、貴島が、「やはり無理だ」と思ってしまうかもしれない。それを思うと、自分の体を晒す事が、佐木にはどうしても怖かった。 「大地さんはきっと今まで、たくさん素敵な女性とお付き合いされていたでしょう? それなのに……」 「腰上げろ」  佐木が言葉を言い終える前に、貴島が短く命じる。 「あっ、大地さん……っ」  制止の声を聞かず、貴島は強引に下着ごと佐木のズボンを取り去ってしまう。佐木は咄嗟に暴かれた場所を隠そうとするが、貴島がそれを許さなかった。  貴島に全てを見られている。佐木は全身を真っ赤に染め、きつく目を閉じた。
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