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アイオイ エピローグ
アスファルトが、照りつける日差しの熱を蓄えて、じわじわと熱気を放っていた。
「あの、大地さん。本当にいいんですか?」
流れる汗を拭いながら、佐木は隣を歩く貴島を見遣った。
「俺に付き合わなくてもいいんですよ? 家で待ってて下さっても……」
すると貴島は佐木の言葉を遮るように、佐木の額に張り付いていた前髪を払った。
「ここ、ほんとになんもねえなあ」
貴島は呟いて、眩しそうに辺りを見回した。見渡してもだだっ広い畑付きの民家がポツポツとあるだけで他には何もない。生まれてから父が亡くなるまでをこの土地で過ごした佐木にとっては落ち着く光景だったが、生まれも育ちも都会の貴島からすればこんな田舎は退屈だろう。
久し振りのまとまった休みに、佐木は数年振りに故郷へ戻った。帰郷するという佐木に「一緒に連れて行け」と言い出したのは貴島だった。佐木は驚いたが、それを嬉しく思った。その気持ちのまま、何も考えずに貴島を連れてきてしまったが、退屈そうな貴島を見て少し後悔した。
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