フシダラ 第2話

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 佐木が皿をテーブルに運ぶ間も、貴島は喉を鳴らしてビールを飲む。佐木は酒が殆ど飲めないし、ビールの美味しさが理解できないが、それを美味しそうに呷る貴島を見るのは好きだった。  二人で食事を済ませると、今度は佐木が風呂に入った。バスルームを出ると、貴島はリビングの隅に設置された大画面のTVで何かを観ている。佐木は邪魔をしないようにそっと近付いた。流れる映像では高校生くらいの男女が夜の森を歩いていた。ふとテーブルに目をやると、DVDのパッケージが数本積んである。ざっとタイトルを目で撫でて、貴島が何を観ているのかがわかった。 「上がったか」  背後の佐木に気付いた貴島が振り向く。貴島は滑らかで控え目な光沢のあるソファの背もたれを指で叩き、佐木を傍へと呼んだ。佐木はソファの後ろから回り込み、貴島の隣へと腰を下ろす。 「九鬼監督の作品ですか?」  訊ねると貴島は「ああ」と短く答えた。今流れている作品を佐木は観たことがなかったが、画面の中の少年が、先日九鬼の口から出た『七原悠』だということはわかった。澄んだ大きな黒い瞳が特徴的だ。数年前の作品だからか、佐木の認識している顔より僅かに幼い。  返事は今月中にもらえると助かる。そう言った九鬼の期限はあと一週間を切っている。佐木は今日まで、九鬼やその映画のオファーについて貴島と話したことはなかった。先方があることだから、今日辺りそれとなく訊ねるつもりでいた。しかし佐木が何を言うまでもなく、自主的に九鬼の作品を鑑賞している辺り、貴島はずっと九鬼のオファーについて考えていたのだろうし、もう答えは出ているように感じた。
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