スクーレとライルのバレンタイン

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「お客さん、こんなもの何に使うんスかぁ?」  食料品を売っているお店。店のロゴが入ったエプロンを着けているのはまごうことなき店員さんだが、その前にいるお客さんは、ピンクのツインテールの女の子だった。 「お料理です」 「ふぅん。あっ、もしかして最近話題の────」 「あ、あああっ!わ、私、もう行きますね!」  いそいそと出口へ向かったその時……。 「きゃっ!」 「わっ!?」 「あーあーあーあー……もう」  女性二人の叫び声と、店員の困った声が店内に響き渡った。店員がその場に向かって、ぶつかった二人にその青い手を差し出した。エメスにはたくさんの悪魔がいるので、体が青だったり緑だったりしていても不思議ではない。 「大丈夫っスかぁ?ちゃんと前を見てくださいよ」 「いたたた……ちょっと!前を見なさ──」 「スクーレちゃん!」  茶髪の女の子が素早い動きでスクーレと呼んだ女の子の手を握る。気づいたスクーレも目を丸くした。 「魔王ライルさん!!」 「おおっ、知り合いだったんスね。なら、忙しいから任せたっスよ〜」  ……そう言って、スクーレとライルしかいない店の奥へと消えていく店員。だが、そんな店員のことは眼中に無い二人は再会を喜んでいた。 「久しぶり!痛くない?大丈夫?」 「うん、大丈夫だよ!久しぶりね、魔王のお仕事お疲れ様!」  ここに魔王であるライルと、元勇者のスクーレが揃った。魔王と勇者という正反対の存在だが、女の子同士仲の良い二人だ。 「ありがと。……スクーレちゃんは、どうしてここに?」 「あ……えへへ、実はバレンタインのチョコを作ろうと材料を買いに来たの」 「えっ!?」  ライルはぎくりと体を強張らせた。そのせいか、笑顔がぎこちなくなっている。 「えっ?」 「じ、実は……私も……なの。失敗が続いて、材料が無くなっちゃって……」  魔王が料理!?と言いたげな顔をしてしまったスクーレ。だがすぐに首を振り、ピンクのツインテールを揺らしてずい、とさらに近づいた。 「なら!私も手伝うよ!」 「ええっ!?でも……。うぅ、スクーレちゃん、お菓子作り上手いもんね……。お願いしますっ、先生!」  ライルは頭を下げる。彼女はスクーレがいつもクッキーなどお菓子を高頻度で作っていることを周りから聞いていたようだ。 「せ、先生?!い、いやいやいや!そんな先生だなんて!」  今にも逃げそうなスクーレだが、その手はガッシリと掴まれており、逃げることはできない。 「お願い!私……私……!ゲテモノしか出来ないの!!」  ライルの叫びが響く。  あまりの驚きの言葉に、スクーレと、奥で聞いていた店員は固まった。 「げ……ゲテモノ……。なんか思い出したような思い出せないような……」  眉をひそめるスクーレ。  共に旅した仲間たちの卒倒不可避のゲテモノ料理たちが脳裏をよぎる。 「悪魔って、どうしてかほぼほぼゲテモノしか作れないみたいなの。ヘラは特別よ。で、本当はヘッジさんとかにシチューの作り方とかを聞きたいんだけど、その……魔王だから席を外せないの」  魔王はふんぞり返っているイメージがあるが、この世界の魔王は珍しく礼儀正しく、さらに政治をしっかりやる真面目ちゃんなのだ。 「だから、お願い!」  さらに顔を近づけたライル。彼女からフワリとチョコレートのいい匂いがした。本当に直前まで作っていたようだ。 「わ、わかった!わかったから!一緒にやりましょ、ね!」 「やったぁ!!そこの店員!店長を呼んで。今後、魔王城はここのお店を支援することにしたから」 「え!?わ、わかりやした!店長〜!」  さらに奥に入っていく店員。それをスクーレが見届けたあと、ライルの方を向いた。 「そんなに早く決めちゃっていいの……?」 「どちらにせよ、材料が足りなくてここに来たんだから問題ないわ。スクーレちゃん、せっかくだから魔王城でやらない?いろんなものを揃えてるし、これから作るときに何が必要か聞いておきたいから」 「うん、わかったわ。行きましょ!」
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