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「……って、来たのはいいけど……」
微妙な顔をするスクーレ。それもそのはず……。
「何でこうなったの!?ねぇ!」
両肩を掴んで揺さぶる。スクーレが指差した方向には、失敗作と使ったままのボウルやキッチンペーパーなどが山のように積み重なっていた。
「これが……努力の結果です、先生……」
ハハハ……と力なく明後日の方向を見るライル。スクーレはため息をつき、いそいそと片付け始めた。
「まずは片付けましょう。チョコレートが固まったら片付けが大変になるわ」
「う、うん」
温かいお湯を魔法で作り、ボウルに次々に入れていくライル。そのお湯は電気の魔法で温めているので、決して触ってはいけない。電気を使った魔法はライルの得意分野だが、人間であるスクーレには普通に『電気の通ったお湯』になるので感電する。
「やっぱり魔法って便利よねぇ。いつもヘラが紅茶を淹れるときに、その場で炎を使って温めてるから少し羨ましいのよ」
「あー、あのあっっつい紅茶ね?いつも火傷しそうになるのよね。熱さ以外は完璧なのに」
ライルは頷く。こんな容姿でも魔王は魔王だ。それなりの力と耐久力はあるが、そんな彼女が呆れるくらいなのだ、相当熱いのだろう。
「遊んでいたらぬるくなってちょうど良くなるから、それ込みで作ってたらいつしかクセになったらしいわよ」
「そうなの?最近は人間界のものも流れてきてるし、ヘラに淹れてもらいたいわね。もちろん……普通の温度で」
「それいいかも!」
ワイワイキャッキャと展開されるガールズトーク。いつしか、山のようにあったものたちが綺麗になっていた。
「うん、これでよし!ライルさんは何個作るの?」
「んー……ムジナとスグリと門番のアルファ、ベータ、あとは魔王城で働いてる人たちにって感じかな。とりあえず50くらい?」
「へぇ、ムジナくんにもあげるんだ。それに、一番最初に挙げるんだ?」
「えっ!?」
ニヤニヤとしているスクーレ。
忘れられがちだが、ムジナはかつて魔王城で参謀をしていた。その時よくライルと抜け出しては遊んでいた。なので幼馴染と言っても過言ではない。
「友チョコ?それとも……」
「う、うう……」
「────本命?」
スクーレはニコニコとしているが、目が怖い。
そんな彼女に見られながら、ライルはおずおずと口を開いた。
「………………ほ、本命……///」
「マジで!?」
からかったつもりなのだろう、本気の驚きを見せたスクーレ。今度はライルが彼女の肩を掴み、頭を下げて震えていた。
「……ナイショにしてて……ね?」
「も、もちろん!応援しちゃうから!」
スクーレは魔王とは思えない彼女の姿に驚いたのか、それともあまりのプレッシャーに狼狽えたのかはわからないが、背中をのけぞらせて首を縦に何度も何度も振った。
「ありがとう!それで……実はこれ、全部ムジナ用に作ってたやつで……。まずは本命からって思ってたんだけど、まさかこんなに失敗するとは思ってなかったの」
「あー……あはは……」
ライルの手から解放されたスクーレは、あの失敗作を思い出しながら苦笑いをした。
匂いこそはチョコレートだが、彼女がゲテモノと言うのだからとんでもないモンスターチョコレートのはずだ。ただの人間であるスクーレが食べたらひとたまりもないだろう。
「スクーレちゃんは誰に渡すの?」
「私は旅のメンバーのレインとヘラとヘッジさんかな。リストは人間界に行っちゃったし、黒池さん経由にしようにも溶けちゃうかもしれないからやめちゃった。あとは、ハレティのためにお供え物もしなきゃ」
「お供え物……ねぇ。いいんじゃない?とびきりのを作りましょ!」
「ハレティ、喜ぶといいなぁ」
彼女はハレティの顔を思い出しながら笑った。
「ふふ、ハレティってお姫様と付き合ってたらしいし、お姫様が浮気だって怒るかもしれないわね。どこの女なのよー!って」
「アルメト様はそんなことしないと思うけど……」
「それで──」
ライルは再び肩を掴み、いたずらっ子のように笑った。こうすれば逃げられないことを学習したようだ。
「本命はレイン?それともヘラ?」
「そ、そんなことっ///」
……とは言いつつも、そう言われたらどっちになるのだろうと頭で考えてしまい、さらに頭がぐちゃぐちゃになってしまう。
「レインの過去の問題については、こちらでも把握していたわ。大暴れしていた時と静かになった時の違いは、見たことのない女の子用のマフラーを着け始めたことって。レインが自慢してたわよ。『へへーん!スクーレに貰ったんだぜ、良いだろー!』って」
レインが腰に手を当ててドヤ顔をする姿がありありと想像できるくらいには、そういう奴だということを理解していた。
「そ、それは……うぅ……。旅の時も他の人に度々聞かれたり何だかんだあったりしたけど、まだ決まってなくて……。でもヘラはムジナくん一筋だろうし、あってもレインだと思うけど……」
「弟のサニーくんはかなり聞き分けのいい子だし、手伝ってくれるかもよ?」
「そんな、サニーくんに迷惑なんてかけられないわ!」
「ふふふ……まぁいいわ。作っちゃいましょ!」
ライルは肩から手を離し、材料の山に向かい合った。
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