雪の魔女

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「魔女?」  村に戻ってからしばらくして、ふと友人に洞窟で出会った女の話をしたら、そんな単語が出てきた。 「そ、雪の魔女」 「なんだそれ」 「時折ある猛吹雪は、その魔女が降らせてるって話だよ。お前知らないのか?」  確かに雪は強いときもあれば弱いときもある。だがそれらすべては空の都合だろう。猛吹雪は人為的に起こされているなど、いったいどこから出てきた与太話なのか。 「聞いたことないな。村のやつら全員それ信じてるのか?」 「村のやつ全員……ってわけじゃないなあ。古い年寄りとかはけっこう信じてるみたいだけど」  そういえば、と友人の家族構成を思い出す。両親がよく街に出稼ぎに行くものだから、友人は祖父母の家で育った。そんな昔話もよく聞いたのだろう。あいにくと俺は古い年寄りでもないし、家にそういう人もいないので、今日が初耳だが。 「それにしても」  この話題はこれ以上続きようがないと判断したのだろう、友人が窓の外を見た。 「今年の冬は長いな」 「そうだな」  窓の外は相変わらず吹雪いていて、村の中でさえ時間帯によっては遭難しそうな勢いだった。 「……今日、家に帰れないかも」 「泊ってけ」  止む気配のない雪を前にぼやく友人。俺は残りの食糧を思い出しながら、そう言った。  雪は、数日経っても止まなかった。いよいよもって、異常事態だ。村全体にも緊張が走る。 「これ以上雪が降り続けたら、食糧がなくなってしまう」  各家庭の備蓄もあるし、村全体での備えもある。  けれど、例年より長い冬の気配に村人が恐れを抱くのは自然な流れだった。  そして、そんな状況だったからだろう。誰かが言ったひと言が、瞬く間に村全体に広がっていったのは。  ――雪を降らせているのが魔女ならば。  ――その魔女を退治しよう。
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