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こんな吹雪の中で魔女狩りなんて正気かと疑ったが、一度湧いた魔女への嫌疑は冷める気配もない。普段ならそんな与太話を信じないような人まで、今回ばかりは魔女のしわざと信じてやまない状態だった。
吹雪もずっと吹き続けているわけではない。俺が村に帰ってきたときのように、時折青空を見せる瞬間がある。それも数時間単位だ。であれば山に入っても吹雪を凌ぐ場所さえ見つけられれば動き回れる。そうやって、魔女狩りをしようという考えらしい。
この広い山で、魔女がいる場所の検討なんてついているのかと思ったが、どうやら俺が友人に語った不審な女が魔女として触れ渡っているようだった。確かに吹雪の中にいそうにもない軽装だったが、そもそも顔も見ていないし、女というのはあくまで予想だ。だぼっとしたローブでは、体形だって出てきやしないのだ。
残り少ない資源を魔女狩りのために費やすのを馬鹿らしいと思う反面、焦る気持ちは嫌というほどわかる。
食糧はもちろん、燃料ももうないのだ。極寒の土地で燃料を切らすということは、それだけで死を意味する。
やってみなければわからない――そんな、いつもならポジティブに捉えられそうな言葉が、今回ばかりは「ひとりの女を殺せば吹雪が収まる」などという幻想について回っていた。
──だからってなあ……
はあ、とため息をつく。背後からはザクザクと雪を踏む音が続いていた。
「俺を先導にしなくてもいいだろうが」
確かにあの女と会ったのは俺だ。だが、あの女が魔女という証拠は何もない。ただの、そう、ただの自殺願望者という可能性だってあるのだ。にもかかわらず、この魔女狩りに強制参加だ。小さな村である以上、助け合いの精神は義務だし、村長の命令は絶対だ。
だが、それでも自分の命は惜しい。冬の雪山に入るというのは、それだけで死を覚悟しなければならないものなのに、それが事実かもわからない魔女伝説のためとなれば、なおのこと我が身の不運を呪いたくなる。
何より、俺が彼女と会ってからもう何日も経過している。同じ場所にいるとは限らないし、普通の人間であればとっくに死んでいるだろう。
そうこうしているうちに少しずつ視界も悪くなってきた。もう間もなく吹雪が来る。
「グループに分かれて洞窟を探せ。吹雪いている間は絶対に外に出るなよ」
全体リーダーが声を張る。既に何ヶ所か洞窟は確認していたためか、避難も早い。
所属するグループリーダーについて、俺も避難を開始する。──した、つもりだった。
「あ──」
白い雪の中に赤は目立つ。それも、血の色とは違う鮮やかな赤だ。
──あいつ……っ
生きていた。
いや、それどころではない。
この集団は、彼女を殺すためだけにわざわざ遭難覚悟で冬の山に入った馬鹿どもだ。
気付けば、その赤い影を追ってグループから離れていた。
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