酸い、甘い

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酸い、甘い

私は今、迷っている。 何を迷っているか。 大変下らないことに思うかも知れないが。 目の前にある個包装のケチャップを開けて舐めるか、迷っているのだ。 ほら、そんな顔をする。 だから言ったじゃないか、下らないことだと。 私はこのケチャップという調味料が、たまらなく好きなのだ。 酸っぱくて甘い。 何かに塗って味わうのではない。 そのまま舐めるのが好い。 そのものだけを味わうのが好いのだ。 なら、さっさと開封して舐めれば好い、と思うだろう。 そうし難い事情があるから、悩んでいるのだ。 いじましい。みっともない。子どものようだ。 そんな体裁はとうの昔に置いてきた。 人前でケチャップを舐めて何が悪い。 今悩んでいるのは、そんなこととは全く別次元のことだ。 口内炎だよ。 こいつは始末が悪い。 辛いものや酸いものを食す時の天敵だ。 旨いが痛い。 折角のケチャップも、こいつがいると旨いのか痛いのか、分からなくなる。 また、そんな顔をする。 だから言ったじゃないか、下らないことだと。 だが、君に話して決心がついた。 「ケチャップを目の前にして舐められない」というストレスに、私はこれ以上耐えかねる。 それでは、失礼して、いただくよ。 うん、酸い。甘い。 そして、痛い。
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