1 悪魔との契約

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1 悪魔との契約

「琴理さん、背筋が曲がっています」 「は、はいっ」 「いかなる時も気を抜いてはいけません。あなたは宮旭日家に嫁ぐのですから」 「……はい」 勉強、勉強、勉強の毎日だった。 花園琴理、十七歳。 都内の女子高に通う、本人自身は普通の高校生だが、幼い頃とんでもないお方の許嫁に決まってしまったため、その瞬間から自分の時間など一切なかった。 嫁として相応しくないなどと思われないように、淑女となれるように、学ぶべきことはたくさんあった。 許嫁相手である宮旭日心護とは何度か逢ったことがあるが、たぶん、きっと、十割嫌われている。 心護は美形という話ばかり聞くが、琴理はまともに顔を見たことがなかった。 目が合ってほほ笑もうとすれば、すっと逸らされるからだ。 それが逢うたびに繰り返されれば……いくら鈍感な琴理でも、嫌われていることくらいわかる。 だが、それもそうだ。物心つくかつかないかくらいの頃に決められた許嫁など、疎ましいだけだろう。 ましてや心護は実力を認められた、『最強』と呼ばれる退鬼師。 本来なら花嫁など選び放題なくらいのはず。 それを――おそらく家の都合で、花嫁を決められてしまったのだ。 可哀そうだな、と同情してもいいかもしれない。 (疲れました……推しに逢ってきましょう)   学校から帰っての習い事が終わった。 夕飯までの少しの時間だけ、琴理はその場所へ行くことが出来た。 コンコン、とドアをノックする。 「琴理です。入ってもいい?」 「どうぞっ」 部屋の中からは気色ばんだ、跳ねるような返事があった。
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