第8話 ヒロイン登場

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第8話 ヒロイン登場

 街の地図の写しをもらい、私たちはカルメーロの家を後にした。地図上でドメニコの家は赤く塗られ、上に”ドメニコ”と書き込みがされている。ドメニコの家は、カルメーロの家から議事堂に沿って歩いて2軒先のところにあった。  表通りに面した家は、区画ごとに隙間なく連なっている。ドメニコの家は区画の角になっており、隣家と接していない側は別の通りに面していた。  議事堂側に、深緑色に塗られた大きな扉がある。扉とそろいの緑色のシンプルなドアノッカーがついているので、キーアンが鳴らそうと手をかけると、ひょいと建物の横側から小さな人影が出てきた。 「こんにちは。私はドメニコだ。もしかして、カルメーロさんが言っていた、追加の護衛の冒険者の方々かな?」  ドメニコも、カルメーロと同様、人の良さそうな笑顔を浮かべているが、その顔はもじゃもじゃとした茶色の髪の毛と同じ色のひげに埋もれている。頭には、ちょこんとした三角の革製の帽子。小さい子供のようにかわいらしくも見えるが、子供らしからぬ所作となめし皮のように年季を感じさせる皮膚が、相応の年齢の大人であることを示していた。 「はい、そうです」  キーアンは驚きながらも、返事をする。  ドメニコの家が面しているもう一方の通りの方から建物を覗くと、なるほど、一階部分は工房兼店舗になっているようで、壁は取り払われ、自由に出入りができるようになっていた。議事堂に面している方の扉は、2階の住居に繋がる入り口といったところだろうか。 「追加ってなんだ?俺らのほかにもいるのか?」  アックスが訊くと、ちょうどもう一人、工房のほうから、今度は私よりも少し背の高い人影が歩み出てきた。 「あら、皆さんが、一緒に護衛にあたる冒険者さんかしら?」  深みのある、柔らかな耳に心地よい上品な声。  ゆったりと歩くその人物からは、匂い立つような甘い魅力が溢れ出ていた。  長い髪を2束に分けて編んだ毛束は腰ほどにまでのび、足を踏みだす度に揺れる。胸の下から腰にかけて大胆に露出した橙の揃いの上下を身に着け、下は地面につくほど長いスカートだ。その上には、深紅の左右非対称な羽織。  左右に分けた前髪からは、華奢な鎖と石を組み合わせた飾りがその綺麗な額を彩っている。  幾重にも金色の細い腕輪をつけた可憐な手で握るのは、地面から肩までの長さがあろうかという大きな杖。華奢な金色の杖の先端は、金色の柄が分岐していき、チューリップの輪郭をかたどったような具合にねじれる。チューリップの子房にあたる部分には、紅蓮に輝く石が嵌められているのだった。
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