第1章 勇者達の出会い

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第1章 勇者達の出会い

1話 トリシラベとニホン  突如現代日本に異世界転移した勇者、ヒュブリス・キャスパーは何もわからないままに騒ぎを起こし、公務執行妨害と銃刀法違反で捕まってしまった。そんなヒュブリスは警察署に連行され取り調べを受ける事になった。 (あれから俺はパトカーとかいうものに乗せられ、なんかデケェ建物に連れて行かれた。大切なアレもホリスとかいうヒョロガキに奪われたままだ。 ったくどうなってんだよ!!!)  ヒュブリスは怒る気持ちを抑えながらも警察官に大人しく従って警察署内へ入り、更に進んで狭い取調べ室へと雑に押入れられた。 「っととと、おい!もっと丁寧に扱いやがれ!」 「静かにしろ、そこに座れ。直に刑事が来る」 「はぁ?ケイジって何だよ。何すんだよ」 「…………………………」 「…チッ、無視かよ」 「…………………………」  警察官は必要以上に言葉を発さない。そんな態度に悪態をつきながらも警察官の言葉に従い椅子に座る。これから行われる事がわからない不安と自分の置かれている状況がいまいち飲み込めない焦燥で貧乏揺すりをしながら側で控える警察官に睨みをきかせた。 (全く俺が何をしたって言うんだ、ちょっと小突いただけじゃねぇか。剣だってそう、何も人に向けた訳じゃないのに何で盗られなきゃいけねぇんだよ。紛いなりにも俺は騎士としてやってきてたんだ、剣の扱いなら誰よりも長けてる自信があるし今となっては魔王から国を救った勇者としてその名を轟かせてたんだ。そんな俺の事を知らねぇ奴はいないはずなのに、アイツらは俺を知らなかった。糞に集るハエみてぇに群がってた奴らも誰一人として俺を………… 世界を救った勇者として見る奴はいなかった…… あれは好奇の目だった… ここは一体何処なんだ…………)  そう自問自答をしていたところ、慌てた様子の刑事が息を切らして取調べ室にやってきた。ヒュブリスは警察官を睨む目をその刑事に移した。 「はぁ、はぁ…すいません、お待たせしてしまって…」 「……お前がケイジってやつか?」 「はい!では早速お話を聞かせていただきますね」  刑事はヒュブリスの睨みも物ともせず、早速取り調べを始めようとした。ヒュブリスはそんな刑事の淡々とした様子に拍子抜けする。 (よくわかんねぇけど捕まった俺は罪人ってやつじゃねぇのか?コイツやけに丁寧だな……まぁ、礼儀正しい奴は嫌いじゃねぇ。)  こうして取り調べが始まる 「では、お名前は?」 「ヒュブリス・キャスパー。」 「はい。ヒュブリスさん、身分証明書をお持ちでないと言うことですが、ご住所とご職業は何を?」 「ミブンショ……?ゴジュウショ?よくわかんねぇけど俺は勇者だ。その前は国に雇われて騎士をしていた」 「………そうですか。(勇者と自称する身元不明の男が今日これで七人目……」  刑事はヒュブリスの返答に一拍置いて返事をし、手元の文書に目をやってボソボソと独り言を言う。その独り言は大きく、ヒュブリスに聞こえていた。 「は?七人って他にもいるのか?」 「いえ、こちらの話です。お気になさらず」 「チッ、なんだよ…」 「では、公務執行妨害と銃刀法違反の現行犯で拘束されたとの事ですが事実ですね?」 「コウムなんちゃらとかジュートーうんたらとか知らねぇけどそう言われたな」 「罪は認めている、と。(俗世に酷く疎いのも他の六人と一致する……」 「だからなんだよ!!」 ガンッ (さっきからぼそぼそと独り言喋りやがって、ケイジだか何だか知らねぇけど舐めてっと痛い目に合うぞっ!)  そう腹を立てたヒュブリスは手を机に叩きつけ、刑事に威嚇する。しかし、刑事はその怒号にビクともせずに手元の文書からヒュブリスへと見直り話を続けた。 「いえ、こちらの話です。では、それに至った経緯を聞いても?何故あの様なものを持っていたのか、あの場所で何をしていたのか」 「チッ…俺は何も悪い事してねぇ。気付いたらあそこにいた。剣は俺の大切なものだ、俺にしか扱えない…大事な………なのにアイツは!!」  問いに答えるが最後には感情的になって歯を食いしばって俯いた。 「そうですか。気が付いたら知らない場所に居て、大切なもの盗られそうになったから思わず手が出た、そういう事ですね?」 「そうだよぉ…」  ついに先までの威勢が消え、力無しに答えた。そんなヒュブリスを見かねた刑事は幼子を諭すように伝える。 「安心してください。思いがけない事があって思わず手が出てしまうという人は多いです。ですから、悪気がなく罪を認めている場合公務執行妨害は無罪となります。対応した警察官も怪我はありませんでしたし」  その言葉の意味はよくわかっていないヒュブリスだが、起死回生の兆しが見えた事は伝わったようで感激して刑事の手を取った。そんな急変する態度に流石の刑事も動揺する。 「ありがとよケイジさん!なんかわかんねぇけど俺は無罪なんだな!」 「えっ、ちょ…」 (なんだよ…惚れるじゃねぇか… 地味顔だけどよく見たら目鼻立ちは整ってる…… いや、俺には婚約者のルイーズがいるんだっ、こんなところで現を抜かしている場合じゃない!) 「おっと、すまねぇ。興奮し過ぎちまった。…ところで俺の剣は?」 「それはこちらでお預かりします」 「どうしてだよ!!」 「落ち着いてください。ヒュブリスさんが住んでいた国と、ここ日本とでは法律が違う様なので説明させてください」 「え?ニホン…?ここはニホンって言うのか?」 「はい、正式名称日本国、こちらは読めますか?」  刑事は紙に"日本"と書いて見せた。 「お、おう、読めるぞ。日本だ」  ここに来るまでに本人も薄々気付いてはいたが、ヒュブリスは言葉が通じるだけではなく、文字も難なく読むことが出きた。 「良かった。では説明しますね……」  用意周到な刑事は法律について書かれた書類をヒュブリスに渡し、文字に指差しをしながら教えた。日本では刃体の長さが6センチメートルをこえる刃物で、業務その他正当な理由がない場合は携帯することが禁止されていること。拳銃も同じく。人に無暗に暴行を加える事は禁止され、特に公務にあたっている者に手を出すとその罪はより重いこと。これに違反した場合は処罰されること。ヒュブリスが捕まった原因を中心として説明し、他にも多くのルールがあることを大まかに話した。勿論ヒュブリスはその莫大な情報量について行けずに最後の方は右から左へと聞き流していた。 「……………と、こんな感じですかね。」 「…………………………な、何ていうか、厳しいんだな」 「まぁ、一度で覚えるのは大変でしょう。ですから、もう厄介事は起こさないようになるべく穏便に過ごしてくださいね」 「そうするよ…。もうこんな事は懲り懲りだ…」 「ですから、ヒュブリスさんの持ち物は返すことはできません。それにまだ無罪だと決まった訳では無いので、まだ終わりませんよ」 「………………………………………」  先の説明を聞いて何となく予想はついていたヒュブリスであったが、真っ正面からはっきり言われると言葉が出なくなっていた。そんなヒュブリスの様子には目もくれずに刑事は言葉を続ける。 「今日はもう遅いので署に泊まってください。貴方方が身元不明なのもありますが、勾留中の身には変わりないので、事がまとまるまで一週間程居てもらう事になります」 「それって檻に入れられるってことか?」 「まぁ、そうなりますね。食事は三食出ますし、欲しい物も検査が通れば支給できますのでご安心を」 「そ、そうか。……なぁ、刑事さん」 「何でしょう?」 「俺の事疑わねぇの?この日本じゃ勇者って変なんだろ?嘘付いてるとか、ヤバイ奴だとか思わねぇのか?」 「まぁ、最初は勿論驚きましたよ」 「それにしては随分と堂々としてたじゃねぇかよ」 「ヒュブリスさんで"七人目"ですから慣れました。それに貴方は意外と素直で女の私一人だけでも事足りましたし」 「やっぱりあの独り言!」 「そういう事ですので、また後日。取り調べお疲れ様でした」  そうして女は書き込んでいた文書をまとめて部屋を後にした。
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