第0章 プロローグ

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第0章 プロローグ

プロローグ  「「こうして俺達の華麗な勇者生活は幕を閉じた……」」  車のエンジン音と排気ガス、街頭広告の爆音の音楽、人々の雑踏が蠢 く街中で男が目を覚ます。 「ヤバいよ、起きたよ…」 「本当だ、こうしてみると意外とイケメンかも…」 「でもコスプレはヤバいでしょ…」 「ねぇどうする?……」 (……………やたらとうるせぇし、くせぇ。何だこの耳障りな音は、それに女の声か?変な格好してキャーキャーと騒ぎやがって、娼婦か?年頃の娘が外であんな露出の高い格好をするなんてお里が知れるな。)  男は周りに目を向けると、皆一様に風変わりな姿をして自分に石版(スマホ)を向けていた。それはパシャパシャと軽快で奇妙な音が鳴り続ける。中には向けた石版(スマホ)に話しかける者もいた。男の目にはそれらが異様な光景に映る。 「背中のあれ何、役者かなんかか?………」 「顔超良いじゃん!バズりそう〜………」 「あれ?似たタイトルで配信してる奴が他にも……おい!向こうにも居るらしいぞ!!……」 「まじかよ!見に行こうぜ!!……」  野次馬のように周りを囲み騒ぐ人々を前にして、男は感じたことのない恐怖とも言い難い感情が沸き起こった。  知らない景色、知らない物、知らない言葉…………知らない、知らない、知らない………… そう、知らない場所にいた。  周りが変なのではなく、この男がこの世界における異物だったのだ。 「何だ……ここは…………」  自分の置かれた状況を呑み込めず戸惑っていると、かっちりとした服を着て硬そうな(ヘルメット)を被った男達が野次馬を掻き分けて近寄ってきた。 「不審者情報があって来ました。お兄さん、何されてるの?」 「……は?」 「名前は?あ、免許証ある?」 「俺はヒュブリス、ヒュブリス・キャスパー。………メンキョショーってなんだ?」 「お兄さん外国の人?じゃあビザとか在留カードは?」 「びざ…?ざいりゅう…?え?」 「はぁ……ご職業は?」  どの質問に対しても何一つ要領を得ない回答に呆れため息をついた男はヒュブリスが何者であるかを尋ねた。 「俺は勇者だ」  堂々と答えたヒュブリスに頭を抱えた男はこれ以上追求するのをやめて連行しようとする。 「お兄さん、署まで来てもらおうか」 「えっ…ちょっ…離せっ!!」 「それに背中のそれも見せて貰う」 「やめろっ!!これは俺のっ!!!」 ガンッ!!  大切なものを盗られそうになり、思わず手が出るヒュブリス。背中に伸ばされた手を激しく振り払った。 (これは俺にしか使えない勇者の(つるぎ)……盗られてたまるかっ!!!) 「ッ………公務執行妨害で現行犯逮捕する!ホリス君、所持品の確認をお願い」 「はい。……………え、これ真剣です。刃渡り約1m……、銃刀法違反ですね」 「おもちゃかと思ったが………そうか。ヒュブリス・キャスパー容疑者、公務執行妨害及び銃刀法違反の容疑で19時24分、現行犯逮捕だ」 カシャ  手錠がかけられる。 (普段の俺ならコイツらなんか一捻りだが、どうもそう言う訳では無さそうだ。元いた世界とは常識がまるで違う。ここは素直に従った方が良いだろう……何が起きているか全く検討も付かないが、足掻いても無駄だということだけは分かる……)  早々に諦めたヒュブリスはなすがままに身を委ね、勇者の証を取られて捕まってしまった。 (見知らぬ世界にただ一人…あれが無いと俺は何者でもない……… 一体どうなるんだ、俺…………)
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