姉小路家 2月26日 水曜日 午後5時

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姉小路家 2月26日 水曜日 午後5時

 東京都内でありながら、門から玄関まで車でいかなくてはいけないほどの大豪邸の前で待つ間、  車のドア越しに 「警察ですか、何かわかったんですか、事故ですか、殺人ですか」  記者の問いかけとカメラのフラッシュを浴び続けていた 「キツイですね。プライバシー侵害で逮捕できないっすか」  若手の今井刑事はキレ気味に吐き捨てた。 「おい、軽々しく逮捕なんて言うんじゃないぞ。もう開くだろ」  徳永警部はまっすぐ前を向いたまま、フラッシュにも微動だにしていなかった。  自動で門が開いてやっと屋敷に入れた。 「(あん)お嬢様、警察の方がおみえですが。どういたしましょうか」  家政婦の吉田美智子(よしだみちこ)がドアに耳をつけて聞き耳を立てている。 「はい、わかりました。いきますね」  家政婦吉田のやや下品な行動は、か細い声で聞こえずらいからだった。数分してドアが開いた。泣き腫らした顔をみられたくないのか 姉小路 杏(あねこうじ あん)35歳は伏せ目がちだった。 「杏お嬢様」 「大丈夫よ。いきましょう」  杏は心配そうな家政婦 美智子を伴って応接室に向かった。 「お待たせいたしました」  応接室のドアが開いた向こうで深々と頭を下げる女性に、徳永警部と今井刑事はソフアーに沈んだお尻を急いであげた。 「こちらこそ、あの、ご葬儀の日に、、すみません」  気の利いた言葉がうまく出てこないので、徳永警部も深々と頭を下げた。今井刑事も同様に。 「どうぞ、お掛けになってください。和也さんのお父様、お母様は体調がすぐれないので、一旦ホテルに戻られました」  徳永警部と今井刑事はやや前のめりになっている。 「杏、もう少し声を張らないと。刑事さん、聞こえないですよね」  杏は隣に座る嫌味な男を睨みつけた。 「はい、いえ、そんなことございません。ご心痛の中、何度もお伺いいたしまして失礼致しました」 「徳永警部、今井刑事、事情聴取は当たり前ですわ。お兄様、茶化さないでください」  杏の隣の男は姉小路 秀俊(あねこうじ ひでとし)40歳。杏の実兄で姉小路グループのCEOだ。今はアメリカに居住している。 「わかった、黙ってるよ。俺は、今朝、帰ったばかりだからな」    黒いネクタイを緩め、肘をつきながら、斜めにもたれかかり、だらしなく長い足を持て余すように組み、リラックスしている秀俊とは対照的に、喪服姿で背筋をピンと伸ばして、まっすぐ見据える杏の眼差しはとても美しく、そして、生真面目な揺るがない意志の強さを感じた。 「徳永警部お気遣いなく。私くしは大丈夫です。覚悟は出来ております」    徳永警部は顔を引き締めて、眼球鋭い刑事の顔付きになっていた。  
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