愛する我が子へ

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「あんたなんて産まなければ良かった」  少女は幼少期より、そんな言葉を投げかけられていた。  少女の名前は佳奈(かな)。  生まれた時からおっとりしていた少女は、同年齢の子供が歩き始める頃でも一人座っていて、大人と話が出来る月齢でも言葉は発せず、周囲の子供が仲良く遊んでいても佳奈はそれを眺めていた。  どうやって一緒に遊んでいいのかが、分からなかったからだ。  困惑の幼児期を過ごした佳奈は学童期に入り学習が始まると、その遅れは顕著となり勉学についていけなくなった。  それは少女の将来に関わることであり、教師は面談の機会を繰り返し設けていたが、その都度母親は激昂し話を聞かず帰ってしまう。  そんな母親が、怯えて帰宅を待っていた娘に放つ第一声はいつも同じ。  「あんたなんて産まなければ良かった」だった。  結局、その後も勉学についていけず、義務教育が終わる中学三年生で進学を諦める事となった少女は、新たな居場所を求めて一人街を彷徨っていた。 「どうしたの?」  そこに声をかけてくるのは、孤独な少女を狙う悪意の塊のような大人達。  佳奈は、その淋しさを埋めるかのように大人達に付いて行き、身を任せてしまう。  そして、十七歳の秋。  共に暮らしていた大人達に突如裏切られる。  いつも通り車に同乗していたら、置き去りにされてしまった。  逸れたと思い周辺を探すがその車はなく、連絡も通じず、また常に車移動だった為、家の場所も覚えていなかった。  頭が真っ白になる中、その場にへたり込んでしまう。  少女に過失はなく、どこまでも無責任な大人の所業にも関わらず、自責の念に苛まれた少女は一人声を上げ泣いていた。  住処を失くした少女の選択肢は一つ。家に帰ること。  黙って家を飛び出し、一年が過ぎていた。  懐かしいドアノブを見つめ思うのは、両親が心配して待ってくれているのではないかという淡い期待。  恐る恐るリビングのドアを開けるとそこには母親が居り、少女を見て一瞬時が止まったかのように硬直したが、すぐに手を伸ばしてきた。  バシッ。  その手は、佳奈の頬を思い切り(はた)いた。 「どこに行ってたの! 娘が家出なんて私達がどれほど恥をかいたか!」  一瞬でも期待した、自分を呪った。 「……ごめんなさい」  だから少女は、そんな母親に目を合わせず、反論もせず、その言葉のみを口に出す。 「苛つく! なんでこんな子産んでしまったのか……。早く視界から消えて!」  そこまでのことを言われても表情を変えず、言いつけ通り自室に戻る。  その部屋は一切変わっておらず、布団ですら敷いたまま。  両親は少女に興味がなく、娘が居なくなった時に部屋を調べて行方を探そうとも、娘が帰って来た時に柔らかな布団で寝かせてあげようとも考えていないようだった。  少女はその現実から目を逸らすように湿った布団に包まり、ただ目を閉じる。  布団の中だけは静かで、少女を優しく守ってくれた。
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