愛する我が子へ

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 その後、愛子は特別養子縁組により理解ある夫婦に引き取られた。  初めは心を閉ざしていたが、大事に育てられ愛されているうちに少しずつ心を開き、以前のように食事を摂り笑えるようになったらしい。  適切な支援を受けていく上で話をしたり、人との関わりを持てるようになり、次の春より小学校の入学予定。  地域の小学校に設立されている支援学級で、愛子に合わせた勉強を教えてもらえることになっている。  そんな成長の日々を佳奈は相談員を通して聞いており、自分では立派に育てられなかったと、ただ感謝の言葉を述べていた。  一方佳奈は検査の結果、軽度のハンディキャップを抱えていることが分かり、また支援を一切受けていなかったことから自立を目指した支援施設に入所していた。  そこで社会で生きていく為の知識、人との関わり方、職業訓練、そして佳奈に合った勉強を教えてもらっている。  知識を得ていく中で、自分は大人達の甘い言葉で利用され、妊娠の兆候が出たから捨てられた現実を思い知り。そして妊婦健診にも行かず出産することが、いかに危険なことを痛感した。  結果、無事に出産を終えたが医療従事者達に多大な迷惑をかけ、そして何より娘を危険に晒していた。  もし、何かあれば。  そう考えると、軽率だった自身を心より恥じた。  佳奈は少しずつ前に進み、仕事を始め、金銭管理を学び、そしてこの春から施設を出て支援を受けながらアパートで一人暮らしをすることになる。  愛子と同様に、佳奈も新たな一歩を踏み出そうとしていた。  そんな春先、淡い青空に終雪が降る頃。  佳奈は手続きの為、市役所に戸籍謄本を受け取りに行き、その事実に気付く。  愛子の氏名欄の横に「除籍」と記載されていたことを。  「籍」の字は読めなかったが、「除」は読め大体の意味は理解出来る。  愛子は、ここにもいないのだと。  あの日の説明を思い出す。  特別養子縁組は戸籍を養親の元に移し、佳奈と愛子との親子関係は終了する。  それを知った上で、佳奈は同意していた。  分かっている。  自分は我が子を育てられなかった母親。  あの子を心より愛し、大切なことを一つひとつ教えてくれる養親の元で育った方が幸せで、将来の自立の道を切り開いていけるだろう。  分かっている。分かって……。  しかしその感情とは反して、目から止めどなく涙が溢れていた。  娘を手放し、初めて流した母の涙だった。  空を見上げれば花弁雪が舞っており、愛子が生まれたあの日を思い出す。  もう対面することは叶わないが、広がる青い空の下で愛子は今も笑っている。それで充分だった。  その思いから涙を力強く拭い、一人歩き出す。  佳奈に出来ることはただ一つ。我が子に恥じない生き方をすること。  その決意を胸に、これからを生きていく。
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